渚のさむらひ 三人ヲトメ
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


        




その日は確かに、もう昼下がりという時間帯だったし。
此処まで来るのにも、ごくごく一般の旅というのを堪能したくてと、
お嬢さんたちだけでのお気楽な移動、
JRの指定席を乗りついでという旅程を取ったため、

 『車内販売で駅弁も買いましたしねvv』
 『……vv(頷、頷vv)』
 『専用のお茶が可愛いったらvv』

途中の乗り継ぎ駅では必要以上に焦ってのこと、
ホームの移動では、
帽子を押さえの、ポーチを抱えのという駆けっこにもなったほど、
思った以上に はしゃいでしまい。
そんなこんなという興奮を抱えて到着したばかりなのに、
今から泳ぎに行くのはちょっと…と、
体力的にというよりも、賢明さがさすがにブレーキをかけてはいた。
それでと、駅からは真っ直ぐ、
逗留先のこちらへ来たのでもあったのだけれども。

 「…よくあるお話じゃああるわよね、確かに。」

人通りの少なくなる、黄昏どきの松林。
他には誰も通っちゃいないのに、
だのに、誰かの気配がしただの、人影があっただの。
学校の怪談ばり、
誰かが面白半分に言い出したものから、
枝葉がついての発展しやすい仕立ての話ではあって…と。
涼しい潮風の入る広間にて聞いたお話、
勧められたお風呂へまで持ち込んだ彼女らで。
女将さんは ちょっとした外湯という言い方をなさってらしたが、
何の何の、大きな旅館でもここまで本格的な露天風呂は、
格が相当に上のところじゃあないと用意がなかろうという級の立派なもの。
自然の御影石を掘ったらしい大きな大きな岩の浴槽へ、
天然の温泉じゃあないというが、
それでも いい肌あたりの湯を満たしてあり。
それを据えた風呂場は、緑の中に囲まれた丸太組のコテージ風、
洗い場の足元は少し古風に、那智黒みたいな石を敷き詰めた床になっていての、
片側を海の方向への見晴らしがいいようにと大きな掃き出し窓にしてあり。
彼女らが使わせていただいている離れ同様、
海までの間に遮るものは何もないという絶景つき。
しかも敷地の縁にあり、
その方向のすぐ先は海へ向かって切り立っているので、
外のどこかから覗こうと思ったならば、
海の上へ船を出してから望遠鏡で…という
大掛かりなこととなりそなほどで。

 『わあ、凄い凄いvv』
 『……vv(頷、頷)』
 『そっかぁ、父様ここを自慢したかったか。』

七郎次も一緒に此処でお世話になったのは、
彼女がもっとずんと幼かった頃どまり。
その当時はこんな風呂もなかったそうで、
びっくりするぞなんて言ってたのはこれかぁと、
お父様の思し召し通りに吃驚してからの、さて。

 「この夏からだというのも浅い話ですよね。」
 「だが…。」

お気に入りの蝶々のバレッタで後ろ髪を上げた久蔵が、
少々考え込むようなお顔になって呟いたのが、

 「いやに広がりようが早い。」
 「早い?」

平八に訊かれ こくりと頷くと、

 「子供の噂話が大人へまで伝わるには、結構時間が掛かる。」

思うところを端的に口にする。
それを拾ったのが、
両手で救ったお湯を持ち上げ、
ぱしゃりと細おもてのお顔を洗って見せた、
こちらも金の髪を頭の上のほうへと上げておいでの七郎次であり、

 「そうだよね。
  仕掛け人がいないブームであればあるほど、
  テレビのニュースなんかで
  “話題です”とか“流行してます”なんて取り上げられる頃には、
  若い人の間じゃあ もう飽きられてたりするし。」

一発芸や はやりの言い回しなんてもの、
テレビだけじゃない、
PCネットや携帯サイトなどなど、情報に触れる手段が増えたせいか、
昔に比べれば、消費され風化するペースも随分と早くなった。
それにしたって、

 「そか。地域限定、恐らく口コミの話題が、
  大人の、それもおじさん層にまで
  もう広まってるなんて早すぎるよね。」

最寄りの駅前でも、
部活だろうか学校帰りっぽい制服姿の男子が数人ほど、
普通電車から降り立っていて、
車を待っていたこちらを気にしていた気配だったから、
過疎化を叫ばれるほどには、若い人や子供がいない土地じゃなし。
ただ、そういった子たちが広め始めた話だとしたらしたで、
この夏からの話ってところで尺が合わない…と
言いたい紅ばらさんらしい。
うんうんと頷いてた白百合さんが付け足したのは、

 「しかも、誰かの気配や影どまりかと思や、
  子供の通せんぼとか、見た人があったような部分があるのよね。」

こちらさんもまた冷静な口調になって紡がれる見解には、

 「又聞きが発展した…にしては期間が短いから、
  さほど尾鰭はついてないはず?」

要領を得たそれとしての確たる推量へ、想像の翼を広げてもおり。
神妙な口調だったことへ、ついつい眉を寄せたひなげしさんが、
ふるると小さな肩を震わせてしまう。

 「だったら尚のこと、リアルが過ぎるって。」

結構大きな湯船なので、
ちょっと窮屈にも腕同士がくっつく格好にはなるものの、
それでもスリムなお嬢さんたち、
みんなで一緒に入ることも出来て。
瑞々しくも元気な松原の緑の梢に下の縁を縁取られ、
その先に広がるのは、
濃青の静かな海と、その縁にひたりと寄り添う空の青だけ。
まだ明るいうちのお風呂に浸かり、
そんな壮大な景色を真っ向から望みつつ、

 「ただの怪談もどき、なんじゃない?」
 「まぁね。
  浜茶屋のおじさんたちが
  何かあってからでは遅いとか、
  評判が悪くなったら困るって言ってるそうだけれど、
  実際例としての被害は…。」

と何か言いかかった七郎次だったが、その声がふっと途中で宙に溶け。
どしたどしたと後の二人が顔を向ければ、

 「なんで浜茶屋のおじさんたちがそんなことを言い出したのかな。」

 「???」×2

だって浜辺へ出る道なりに怪しいものが出るだなんて、
商売が上がったりになる話でしょう?

「松並木を通らないで出られる浜といや、
 防波堤を越した向こうの、
 テトラポットの積まれたところだの岩場だの、不安定なとこばかりだし。
 砂浜へは傾斜がきつい斜面ばかりで、
 並木があるんだからって、他には特に整備もされてないんだもの。」

しかも、夕暮れどきなんて、まだ片付け仕事がばたばたしている時間帯。
晩は…今はどうか知らないけれど、
夜中に泳ぐ人もなかろうってことで、
昔からの自主規制のまんまなら、店は全部閉まってるはず。

「だったら尚更、自分で見聞きした話じゃあないはずで。
 何人もの観光客が口を揃えて話してたことなのか、
 顔馴染みの誰かがひどく案じていたんで印象に残っていたのか。」

とはいえ。

「いくら、年端もゆかぬ女の子を預かるからって、
 慎重になってた女将さんだったとしたって。
 例えば 昨日訊いたばかりな話を、よその人へまで広めるかなぁ?」

 「いや、そこは用心させたくて、じゃない?」
 「人によっては好奇心を煽られちゃうかもだよ?」
 「……ホラースポット好きとか。」
 「そうそう、オカルトが好きな人は少なかないんだし。」

 「……………。」

 「どしましたか、ヘイさん。」

3人の中では、もしかして一番に好奇心が旺盛なはずだった平八が、
そういや、いやに語調が重いと気がついて。
七郎次が声をかけて来たのへは反応がなかったものの、
それを指して“疲れたか?”と、
かくり小首を傾げて横合いから覗き込む久蔵なのへは。
さすがに ああと気がつき、いいえいいえとかぶりを振って、


 「…いえ、ホントに幽霊の仕業だったらやだなぁと。」

  「……………………え?」×2


残りの二人の反応へ、そうくると思ってたとしつつも、
反駁することなく、
むしろ大人しくも“ふにに”と湯の中へお顔を沈める彼女であり。

 「…………。」
 「これ、久蔵殿。指差しちゃいけません。」

  こらこら、あんたたち。
(笑)

そんな言われようからは、
さすがに何かしら感じるところもあったのか、
髪の裾を濡らしたまんま、
苦笑交じりなお顔を浮上させたひなげしさんであり、

 「そっか、ヘイさんてオカルトは苦手か。」
 「ええ、ちっとだけですが。」

 ???
 形の無いものだろうって? だから怖いんじゃないですか。
 ?????
 今まで見たことがないのでどう怖いか判らない?
 ……。(頷)
 ホラー映画とかで見たことは?
 ……………。(う〜んと……)
 そういうのはCGばかりだし、兵庫さんが選ばない?

   「あ………。/////////」

   「あvv」 ×2

今度は久蔵が、
湯にあたっただけとは見えぬほど真っ赤になってのそれから、
湯の中へ顎先から順に
プクプクもぐったのは言うまでもなかったり……。

 「つか、相変わらず、シチさんたら物凄い以心伝心ですね。」
 「え? え? そうっかなぁvv/////////」

そんなだからあの勘兵衛さんが、
まだまだネンネで口も回らぬ久蔵相手に、
大人気なくも妬くんだぞ…とは。

 “困惑させるだけでしょうか…。”

さすがに言えなかったひなげしさんだったそうな。
(苦笑)







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 *ちょこっと中休みみたいになっちゃいましたね。
  つか、あまり大きな騒ぎにするつもりはございませんで。
  むしろ、お嬢さんたちのお喋りを中心に…vv

  もちょっと続きますのでお付き合いのほどを。


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